1998年長野オリンピック、日本中が歓喜に沸いたスキージャンプ団体、大逆転の金メダル。この栄光を陰で支えた25人のテストジャンパーたちの、知られざる感動秘話が映画化!
映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄~』公式サイトより
長野オリンピックで金メダルを取ったスキージャンプ団体。その舞台裏を描いた映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』がもうすぐ公開になるらしい。映画の宣伝を見ながら母がふいに思い出話を始めた。
「結婚式の日、親族も全員揃っているのに新郎だけ来なくて、大分遅れてやっと来たと思ったら謝るわけでもなく第一声『スキージャンプ、日本金メダル取りましたよ!』って言われて。あきれて怒る気にもなれなかったわ。忘れもしない2月6日」
ちょっと待ってよ。なにその蔵出しエピソード!
新郎というのは、わたしの父である。ふたりが結婚式をしていたことも初耳で、それが札幌オリンピックのスキージャンプ決勝の日だったことも当然知らなかった。
父と母はわたしが3歳になる頃には離婚していて、わたしには父との思い出がほとんどない。父がどんな人間だったかをあまり知らない。だからDNAに組み込まれた情報以外、父の影響で形成された人格もほとんどない。
母が兄ふたりとわたしの3人を、一切の貧しさを感じさせずに育て上げてくれたことや、やりたいことを自由にさせてくれたこと、母子家庭だからこそ経験できた多くを誇りに思っているから、今まで父が不在だったことになんの不満もなかった。
だけどこの「新郎オリンピックに夢中で結婚式に遅刻事件」を聞かされて初めて、父の影響も受けて育ってみたかったぁ~と思った。
だって、自分の結婚式当日、オリンピック中継に夢中になって大遅刻をかましておいて「日本金メダル取りましたよ!」って式場に飛び込んでいく人、ヤバくない?
しかも、母は祖父(母の父)に結婚をものすごく反対されていたっていうんだから。苦労するのが目に見えていたのか、まだ若い末娘を長男の嫁にしたくはなかったそうだ。するとMy父は家出をして来たらしく、さすがに根負けして祖父が許した。だから結婚式は母方の親族だけを集めて神前で行われることになっていて、父方の参列はなし。そんな結婚式にスキージャンプを応援していて遅れちゃうっていう。もぅ、神風吹き荒れててすごい好き。
わずかな記憶の中に、父が怒った姿は残っていない。記憶にないだけでなく、そういう人だった。一番覚えているのは、次男とわたしと3人で一緒にパチンコに行って、家に帰ってから母にめちゃめちゃ怒鳴られたっていうしょーもない思い出。その時も父は「えへへ」って感じで、悪びれる様子もなく、母の怒りのエネルギーを削いだ。
もしも、万が一にも、父の背中を見て育っていたら、わたしはもう少し、周りを気にしない人間になっていたんじゃないか、なんて途方もないタラレバを想像する。
「すごい蚊に刺されちゃって、ムヒ塗ってたら遅れました」と言って遅刻してくるとっちゃんに、人としてとてつもなく憧れるのは、わたしがかすかに記憶している父親の面影なのかもしれないなと思った。