卒業検定

いよいよこの日がやってきた。自動車教習所の卒業検定だ。週末だけの教習でも技能を受け始めてから2ヶ月ほどで辿り着いた。

不安な点はただ一つ。車線変更のタイミングだけだったが、なんとも運がいいことに、車線変更がそれほど難しくないコースに当たった。あとは信号機のない横断歩道で大袈裟に速度を落とし、これでもかってくらいに安全確認をすれば平気だろう。そう思っていた。

「はい〜、次の信号越えたら停めやすいところで停車してくださぁい」

念仏を唱えるかのようなクセのある話し方で教官が言った。コースの中間地点で路肩に車を停車させる課題だ。はいはい。ここね。このコースはラーメン屋の前に停めたらOKなんだわ。よゆーよゆー。

しかし信号を越えると、前を走っていた検定車がすでにラーメン屋の前に停めているではないか。おまけにラーメン屋のさらに手前にはトラックが路駐している。

若干動揺するも、この辺は横断歩道の前後、バス停、交差点付近を避ければ平気だよね?良きところでハンドブレーキを上げてパーキングに入れてはいOK〜。と思ったら、

「ここで良いですかぁ?」

と教官。

「え。あっ、あっち側交差点ありますね」

しくった。反対の車線側に目をやると細い道路が見えた。やり直していいみたいだったので、場所移動して再びパーキングに入れる。

「ここで良いですかぁ?」

え。デジャブ?全く同じセリフを2回言われることってある?

よく見ると、車体の後ろが交差点から5m以上離れていない。

「あっ、後ろ、ちょっと距離少ないですよね」

同乗している教習生2名も後ろを振り返って間違いに気がついているようだった。

「はいもういいです〜。行ってくださぁい」

も、もういい?ちょっと待って。もういいとは?もういいって何?おわた。かんっぜんに終了の合図だ。思わず顎を上げてヘッドレストに頭をつける。まだ検定コースは半分残っているし、教習所に帰ったら方向変換もあるというのに。おわた。この車内でわたしだけおわた人確定。後部座席の2人もきっとそう思っているに違いない。

「はぁいハンドブレーキあげてくださぁ〜い」

「もういいです」の一言に動揺しまくりで、発車するのにハンドブレーキを戻していなかった。さらにおわた。こんな凡ミスをかますほどわたしはもう死んでいる。

ええい、もうどうにでもなれコノヤロー!緊張がとけたのかその後何事もなくすいすいとゴール地点まで来た。

検定は、エンジンを切って外に出るまでが検定です。エンジンを切って後方から車が来ていないか確認して外へ。

しかし、一通りの停車措置をして外に出る素振りを見せても助手席の教官は無言無表情。

え。嫌な予感。無言てことは、また何かが間違っていたってこと?一旦外に出たが再びドアを開けて「何か違ってます?」と訪ねるも教官は変わらず微動だにしない。

え。どゆこと?不安にかられてもう一度運転席に座ってみた。そしてギアとサイドブレーキを確認。間違いはない。エンジンも切れている。それなのになぜ?

「あれ、何か違います?」

と再び教官に話しかけてみるが仏のごとし。わたしはもう落ちてるからこれ以上はノーコメントってこと?だって1番目の人と交代する時は

「はぁい次の人と交代して〜」

って一言あったじゃん。無言無表情男に不安10000%で外へ出る。ほどなくして3番手が降りて来たので、何を間違えていたのかは分からないがとりあえずわたしの番は終わった(しかも色々終わった)のだと悟り後部座席に戻った。

わたしは受験者3名中2番目の運転だった。停車ミスに加えて最後の、ひとりテッテテレッテテッテテッテテテッテテレッテテッテテッテッテ(珍プレー好プレー)でもう落ちたことが確定しているのに、次の人の運転に付き合うのとか辛すぎる。

3番手の運転中、わたしは放心状態でぼんやりと窓の外を眺めていた。すると突然ガコン!という衝撃で車が揺れた。思わず「わっ」と声が出て我にかえる。どうやら3番手がゴール地点の停車で左に寄せ過ぎておもくそ脱輪をしたのだった。

でもまあ、脱輪よりも停車違反の方がヤバイだろうな。交通違反だもの。まあいいや。次は絶対に間違わなければいいだけだ。方向変換も、練習だと思ってやればいいと気持ちを切り替えた。

所内の方向変換は得意だったので無駄に切り返すこともなくサクサクっと試験終了。待合室に戻ってソッコーで「卒検 停車位置違反 減点」とググる。答えが見つからないままに採点を終えた教官が戻ってきて、グループごとに結果を聞く。

まずは1番手、合格。右左折の幅寄せが足りないことや、横断歩道に歩行者がいるのに通過した等々。色々注意されていた。でも良かったね。彼女とドライブ行くならもうちょい練習してからにした方がいいとは思うけど。まぁ、こんなこと停車違反女が言う事でもないよね、おめでとう。

次、わたし。

「合格です」

「えっ!ほんとですか?ありがとうございます!!」

まさかの合格で急にテンションが上がる。当然、停車位置は減点されたようだが、一発アウトのレベルではなく、他はおおむね大丈夫だったらしい。

「停車位置ね〜、あれだと違反だから」

「はい、そうでした。あと1mくらい前じゃないとダメでしたね」

「あと最後ぉ、なんでもう一回乗ったの?」

それはあなたがあまりにも無言無表情だったからです!せめて、戻って来た時点で笑ってくださいよ!とは言えますまい。まあいい。受かったのだからそれでよし。

3番手、不合格。あの脱輪が響いたのかな。

しかし絶対にダメだと思っていたところからの合格はたまらないものがあった。我ながらスリルぅ〜。

心の中でスキップをかましながら駅までの送迎バスに乗り、イヤホンをして槇原敬之の新しいアルバム『宜候』を再生。マッキーと一緒に、過ぎていく景色をしっかりと眺めながら喜びを噛み締める。なんだかもはや懐かしい。ここ教習でよく走ったなぁ。さようならここら辺の道。土地勘なかったけどおかげで沢山学べたよ。

しばらくしてバスがひとつ目の降車ポイントに到着。

「はいお待たせしました○○駅でーす」

停車した位置は、ゴリゴリに交差点にかかっていた。