ピアスの穴

ピアスの穴の数ほど、物語がある。

同い年のAちゃんが「聞いて。ピアス開けたの」と嬉しそうに耳を見せた。ピアスを開ける「旬」の時期といえば、なんとなく、高校卒業記念とかおしゃれに目覚める大学時代とかの、10代後半から20代前半で、青春の儀式のひとつのように思う。

Aちゃんが耳にピアスの穴を開けたのは、30代後半。なんだか少し羨ましかった。そしてわたしの中で、何かが奮い立つような気持ちがした。

わたしは耳のピアスデビューを飛び越えて、ハタチの誕生日に鼻ピアスを開けた。ちなみにピアスを開けたのは今のところこれが最初で最後である。

予約したピアス屋に着くと「昨日はよく寝ましたか?」と聞かれて「はい」と答えたが、実はあまり寝ていなかった。なぜそんなことを聞くのかといえば、貧血で倒れる人がたまにいるかららしい。

パチン!と一瞬で刺さる器具みたいなもので開けるのを想像していたけれど、見たこともない太くて長い針が出て来て、フツーに手で刺された。全然ひと思いにいかなくてめちゃくちゃ痛かった。鼻の穴からタラ~っと血が流れたが、動じないフリをしてしばらく空を見つめた。

「やったった!大人になった!」そんな気持ちで意気揚々と家に帰ったのに、わたしの鼻ピアスに気がつく者はいなかった。夕食が終わるころ、「ねえ、鼻ピ開けたんだけど」と言うと、「えええええっ!ほんとだ!なんで!」と母はようやく驚いた。

なぜ、開けたのか。それはわたしが見た目的にも普段の行い的にも「鼻ピアスをしなそうな人」だったからだ。鼻に穴が開いたことで、自分の中で何かバランスが整った気がしていた。

男性のピアスの穴にグッとくる。大事なのは、ピアス不在という点。例えばドラマなんかを観ていてピアスの穴に気付いたら、とたんに惹かれる。夢に出て来た俳優が気になってしまうのに似ているかもしれない。ちょんまげに立派な着物なんか着てキリッとしているのに、片方の耳にピアスの穴があるのが一番しびれる。なんだかその人の素が透けて見えそうな気がして、なぜ開けたんだろう、いつ開けたんだろう、普段どんなピアスをしているんだろう、とか考える。

わたしが鼻ピを外したのは会社勤めを始めた27歳頃で、今はもう毛穴の一つと化し、どこに穴があったのかもわからない。