元カレと電話

元カレから電話がかかってきた。

高校時代に初めて付き合ったカレからの着信だ。付き合ったなんつっても、当時はお互いに鬼厳しい寮生活で、カレにいたっては盆暮れ正月もない硬式野球部だから、先輩に見つからないようにこっそり同じ電車に乗るのが最大のデート。

仙石線、8時14分発、中野栄駅から宮城野原まで乗車時間は約15分。駅についたらさようなら。あとはポケベルでやりとりして、授業の合間にちょびっと会ったり、手紙を渡したり。霞がかったあまずっぱぁい記憶。

あれを「付き合う」と言っていいものか。仮に、付き合ってました認定がおりたとしても、25年も前のことだ。そんな元カレのフルネームが、テーブルに置いたスマホに突然表示されたからパニくった。

「もしもし」

「あ、キクタさんの電話ですか?」

「はい、キクタですけど」

向こうから掛けて来たのに「誰?」みたいなテンション。なにやら「もう一人のキクタさん」と間違えたとかなんとかで。

こちらもこちらでカレの声を覚えていなくて

「え、○○くんだよね?こんな声だったっけ?」

と言ってしまった。

電話の向こうのカレが本人かどうか分からない。会話するのっていつぶり?もはやいつ電話番号を交換したのかも分からない。高校時代はポケベルしか持っていなかったから、交換したのは明らかに別れてからだろう。

つーか、16歳、膝丈プリーツスカートのわたしは、どんなしゃべり方だったかしら。なんかこう、もっと「〇〇くぅん♡」みたいなかわいい感じだったような気がするけどもう全く思い出せない。

会話し始めて早々に

「結婚してんの?」

「いや、してないです」

これがかつてわたしが好きだった人の言葉なの?

「これも何かの縁だから」

「まあ、そうですね」

こちらゴリゴリの敬語発す。

「インスタやってる?」

インスタ・・・。まさか、裏垢で韓国のラッパーの情報を追いかけてます♡なんて言えない。

「アカウントはあるけど動かしてないです」

「そうなんだ。オレ、インスタやってるからフォローしてね。いいねもしてね」

「え、おぅん」

これがかつてわたしが愛した人の言葉なの?

インスタフォロー?

す・る・わ・け・ねぇっ!

わたしは今日もインスタを開いてラッパーに会いに行って、spotifyで新曲チェックして、韓国からレコードお取り寄せして、Mnetに課金して『SHOW ME THE MONEY』を観るのに夢中なのに、ふるさとの同級生のインスタを開けば、「長男が22歳になりました」とか書いてあって、時空迷子。眩暈がする。わたしだけずっと変わらず中二病みたいで恥ずかしい。そういう自覚はある。

そうなんだけど、16歳のわたしが彼に対してどんなふうに振る舞っていたかは記憶からすっかり抜け落ちてしまった。42歳の中二病の心は、ライチみたいに外側がかたい。